コック川の汚染問題について 2025/4/8時点

私がお世話になっているワンパイ村(チェンマイ県メーアイ郡)は森と川に囲まれた自然豊かな村です。

ところが現在、ワンパイ村横を流れるコック川が汚染される問題が発生しています。

コック川地図(Wikipediaより引用し筆者加筆)
コック川地図(Wikipediaより引用し筆者加筆)

汚染の原因はミャンマー・シャン州東部での金採掘活動で、ヒ素の濃度が安全基準の2倍以上になる等の問題が発生しています。

ワンパイ村の上水道は基本的には森からの地下水や雨水ですが、乾期になるとコック川から水をくみ上げて使うこともあります。

今回の汚染は、コック川から水をくみ上げることを妨げているため、生活用水が不足する可能性があります。

コック側の汚染問題

コック川の汚染は、ミャンマー・シャン州で行われている金の採掘が原因なようです。2023年以降、中国企業がワ州(United Wa State Armyの支配地域)で大規模な採掘を行っており、ワ州がその許可を出しています。

採掘では有害な薬品(シアン化物など)が使われており、処理されないまま川に流れ込んでいます。その影響で川は濁り、水質も悪化。住民は生活用水として使うのに不安を感じ、魚も減っています。

コック川
コック川

タイ当局は、コック川の水質検査を実施し、2025年3月のサンプルでは、ヒ素の濃度が安全基準の2倍以上であることが確認されました。​具体的には、基準値が0.01mg/Lであるのに対し、0.026mg/Lのヒ素が検出されています。​

2025年3月14日には、チェンマイ県メーアイ郡のタートーンで700人以上の地元住民が集まり、コック川の保護を訴えるデモを行いました。​彼らは、ミャンマー側での無秩序な採掘活動が環境に与える影響を懸念し、即時の対策を求めています。​

出所:

Shan Human Rights Foundation (SHRF)「700 local Thais gather to protect Kok River as 24-hour gold mining continues 30 kilometers upstream in southern Mong Hsat」

Irrawaddy Publishing Group「Chinese Gold Mining in Myanmar’s Shan State Blamed for Arsenic in Kok River」

ワ州(UWSA)が採掘を許可する背景

ワ州(UWSA)が中国企業に採掘許可を与える主な理由は、経済的利益と地域開発の促進です。

AI生成イメージ画像
AI生成イメージ画像

​UWSAは、支配地域内での経済活動を活発化させるため、中国企業の投資を受け入れ、鉱業などのプロジェクトを推進しています。​これにより、地域のインフラ整備や経済成長が期待されます。 ​

2023年にUWSAは資源保護のために一度は採掘を禁止しましたが、鉱山の採掘がワ州の収入源となるため、再開してしまったようです。

Irrawaddy Publishing Group「Wa State Aims to Boost Economy Through Chinese Projects」

24年9月の大洪水にも影響を与えていた採掘

2024年9月の大洪水でも、この金採掘が被害を悪化させたとされています。採掘による土砂や有害物質が川に流れ込み、河床の堆積と水質悪化を引き起こし、洪水の水の流れを妨げました。

その結果、タイ側のチェンマイ県メーアイ郡でも深刻な泥水の氾濫被害が発生しました。

Mizzima「Thais protest against gold mining upstream across the border in Myanmar」

ワンパイ村での洪水被害について

目次洪水が発生した背景ワンパイ村への被害現状(9/13時点)ご相談 洪水が発生した背景 2024/9/11、タイ北部のチェンライやチェンマイ県北部で大規模な洪水が発生しました…

ワンパイ村の現状

実際にチェンマイ県メーアイ郡にあるワンパイ村へ足を運び、村の方に現状を聞いてきました(2025/4/7〜8)

現在、生活用水は雨期に蓄えた水を使っており、日常生活に大きな支障は出ていないとのことです。

例年なら4月には水が尽きてしまう時期ですが、昨年の雨期は雨量が多く、貯水に余裕があるそうです。仮に水が足りなくなっても、自治体による給水支援が受けられる体制があるとのことでした。

また、今年1月に完成した太陽光発電による地下水くみ上げシステムは、いずれ使用を予定しています。ただし、現在の設置場所はコック川のすぐそばにあり、川の汚染による影響が懸念されるため、水源を別の場所へ移す計画が進められています。

ワンパイ村洪水募金のご報告:太陽光パネルと上水道の導入

チェンマイのワンパイ村で、洪水支援募金を活用して太陽光パネルと上水道を導入する支援プロジェクトの報告です。

ワンパイ村での筏下りやボートも現在は難しい状況です。アクティビティとしては可能ではあるものの、旅行者に提供するのは難しいと話してくれました。

「川がいつ元のように戻るのか分からないのが悲しい」「今年のソンクラーンは川で水遊びができない」という言葉が印象的でした。

すぐには解決が難しい状況

私がお世話になっているワンパイ村の方への悪影響が心配ですが、問題の解決には時間がかかってしまうようです。

理由としては以下があげられます。

  • ミャンマーの政情不安(軍政体制)と、UWSA(ワ州連合軍)の自治的な立場により、タイ政府が直接交渉したり圧力をかけることが困難
  • 金鉱採掘による莫大な利益があるため、関係者にとって中止するインセンティブが少ない
  • 国際的な注目や国境を越えた環境協定の欠如もあり、汚染の責任の所在が曖昧

今回の問題は私にとってもびっくりするものでした。

筏やカヌー、ソンクラーンでは水かけをしていた川がこんな状況になるのは衝撃でした。

一方、住民の皆さんの生活にすぐ影響が出ていないことに少し安心しました。

ただ、解決には時間がかかりそうです。できることは少ないですが、見守っていきたいと思います。


ワンパイ村に住む、タイルー族の方については以下記事もどうぞ

タイルー族の歴史と文化:タイの少数民族に迫る

タイルー族の歴史と文化を紹介。タイを含む東南アジアに広がる少数民族の独自の伝統と社会を探る。

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