タイのコミュニティベースド・ツーリズム(CBT)とは?
「コミュニティベースド・ツーリズム=CBT」という言葉を聞いたことはあるでしょうか?
本記事ではCBTについて解説をしていきます。
記事の要約:
- コミュニティベースド・ツーリズム(CBT)は、地域社会が主体となって観光を推進する取り組み
- 地域の収入を分散し、住民の生活の質を向上させ、地域文化や伝統を保護することを目的としている
- CBTは、観光業がもたらす経済的利益の不平等や環境破壊といった問題を解決するためにタイで導入された
- その基本的なコンセプトは「地元の人々による地元の人々のための観光」であり、地域社会が観光開発の意思決定を行い、その利益を享受する。
コミュニティベースド・ツーリズム とは
タイではより持続可能で、「質」の高い観光客をタイに呼び込むための戦略の一環として、コミュニティベースド・ツーリズム(Community Based Tourism=CBT)の観光を重視する取り組みが進んでいます。
CBTは、地域社会が主体となって観光を推進する取り組みです。CBTの主な目的は、観光を通じて地域の収入を分散し、住民の生活の質を向上させること、また地域文化や伝統を保護することです。
CBTは旅行者にとっても現地の文化や生活様式を体験し、思い出に残る旅行経験を提供するものです。
また、地域住民と旅行者の間に友情や理解を深め、地域の一体感を育むことも目指しています。
CBTが生まれた背景
CBTが生まれた背景は、観光業の負の側面を解消することです。
タイにおいて観光業は重要産業です。2019年には訪タイ観光客は過去最高の4,000万人に達しました。
国内総生産(GDP)の約20%を占め、805万人以上(全雇用者数の約21%)を雇用しています。出所:THAI BIZ「コロナと観光業 in タイランド」
一方で、現在の経済的価値を優先した観光業では、環境破壊や不平等な経済発展を助長する側面もあります。
地元のコミュニティの視点が欠け、旅行者やツアーオペレーターの利益が優先される観光業では、環境や生物多様性の破壊を引き起こします。
経済的利益も大手のツアーオペレーターや外部の投資家に渡り、地元のコミュニティは最小限の経済的利益しか得られないこともありました。結果として、地元コミュニティの生活水準は停滞していました。
また、文化的価値よりも経済的価値が優先されることにより、地元コミュニティにおける文化保護活動の動機も低下することがありました。
そこで、地域社会にとっての観光の持続可能性を高め、観光業が地域に与える経済的な恩恵を最大化するためにCBTが誕生、普及しました。
CBTが誕生した背景とその進化
1990年代にタイで誕生した「コミュニティベースの観光(CBT)」は、「地元の人々による地元の人々のための観光」というコンセプトがベースとなっています。
地元の人々が観光開発の主要な意思決定者であり、観光による利益を享受するのは主に地元の人々です。CBTはただの観光コンテンツ作りではなく、地域社会がより自律的に発展し、生活を向上するための手段です。
従い、CBTでは地元の人々は自ら、計画策定、意思決定、管理を行うことを大事にしています。CBTの対象は、農村観光だけでなく、地域のライフスタイルや自然、ラグジュアリー観光も範囲となっています。
CBTはどのようにして普及していったでしょうか?
根底にあるのは、地元コミュニティです。一方で、観光客の受け入れ経験が乏しい地域コミュニティがいきなり旅行者が楽しみ、学べるプログラムを計画・管理していくことは容易ではありません。
そこで、国連開発計画(UNDP)やタイの政府機関”持続可能な観光地管理局(DASTA)”、更には社会的企業であるLocal Alike社等の民間企業が地域コミュニティをサポートしています。両者が連携することによって、地域コミュニティに利益をもたらすCBTを実現することが可能になります。
CBTの成功要因
国立開発行政研究院(National Institute of Development Administration)のSuthamma Nitikasetsoontorn 博士の論文を参照すると、CBTの成功要因は以下の7つだと提唱されています。
- 意思決定プロセスへの参加:地元住民が観光開発の意思決定に参加することで、地域に合った観光が実現されます。これにより、観光が地域の利益を反映し、持続可能性が高まります。
- 資源の所有権: 地元コミュニティが観光資源の所有権を持つことで、観光による経済的利益が地域に還元され、地域の持続可能な発展が促進されます。
- 責任の帰属:地元住民が共同で観光活動に責任を持つことで、観光による利益と課題が公平に共有されます。
- リーダーシップと管理:地元のリーダーシップと効果的な管理が、観光プロジェクトの成功に不可欠です。これにより、観光の質と持続可能性が確保されます。
- パートナーシップと外部支援:地元コミュニティと外部のパートナー(政府、NGO、民間企業など)との連携が、観光開発の成功を支援します。これにより、資源や知識の共有が促進されます。
- 真正性の確保:地元文化や生活様式の真正性を保つことが、観光地としての魅力を高めます。これにより、観光客は地域の本来の姿を体験できます。
- 独自性の確保:地元の独自性を活かした観光資源の開発が、競争力のある観光地を創出します。これにより、観光客に特別な体験を提供できます。
CBTの成功事例
CBTが上手く行っている村の方に、どのようにして発展をしていったかを伺ってみました。
今回紹介する村は、チェンマイのタイルー族の”バーン・ルアンヌア”(Baan Luangnuea Thai Lue Village)というコミュニティです。
この村では2012年からCBT体験の準備が始まり、2014年に本格的にお客さんにサービス提供を開始、そこから10年経った現在も継続しており、プログラムに磨きをかけています。
村でCBTツーリズムが始まった背景としては、市(タムボン)のリーダーの方が伝統体験を作りたいとの想いが始まりだそうです。CBT-I や Thailand Research Fund (TRF) という、地域コミュニティ開発を支援する組織がプログラム作りをサポートしていました。
村においては、アーイさんという方がリーダーとなり、プログラム作りを推進されたそうです。その後は、TAT(タイ政府観光局)や観光・スポーツ省のチェンマイ支部がプログラムの宣伝を支援。また、Local Alike というCBTツアーを中心とした旅行会社のサポートもあり、現在に至っています。
外部からの支援は受けつつも、村の方の想い・行動が一番の成功要因かと思います。私が「なぜ、こちらの村では外国人観光客を集めることができたのですか?」という問いに対して、「村の人が旅行者に対して、タイルー族の文化を心の底から知ってほしいと思っているから」という答えがありました。
もちろん経済的な価値がなければ、ビジネスとしては成り立たないかと思います。しかし、CBTの根幹にあるのは、村の方の「想い」であることを再認識しました。
マニタビ代表が考えるCBT
私がチェンマイへ移住して10か月がたち、実際に村の方とツアーを作る中で感じたことを、CBTの成功要因の項目ごとに記載します。
①意思決定プロセスへの参加:
どのようなプログラムをつくり、どのように提供していくかを外部団体でなく、地域コミュニティーが意思決定をしていくことは地域が主体性を持って取り組みを進める上で不可欠です。
②資源の所有権:
村に適切に資源の所有権が帰属することも重要です。所有権が適切に帰属しない例としては、美しい景観があり自然豊かな村に、都市の資本家がリゾート宿泊施設を建設するような事例があります。村の資源を外部ステークホルダーに容易に活用されない意識・ルールも大切になります
③責任の帰属:
地元の方が共同で取り組みを進める必要がある中で、村全体として観光・CBTの取り組みに関与することは簡単ではないと思います。どうしても人によって、取り組みへの熱量が異なります。
熱量が異なることは避けられないため、熱量の低い人に対して以下に「反対されないようにするか?村に不利益がないことを伝えられるか?」が大事であるかと思います。
④リーダーシップと管理:
村の文化と共に生きてきて、心の底から「文化を外部の人に伝えたい、後世に残したい」と思う人がリーダーとなることがとても重要になります。強いパッションを持ち、ビジョンを語ることができるリーダーがいないと、以下に外部からの支援が充実していてもCBTは実現しないかと思います。
また、以下に”2代目”のリーダーを育成していくかが、継続のポイントであります。近代化に伴いどうしても、2代目の世代は1代目と比べて、村の固有の文化で生きてきた経験が弱くなるかと思います。
その中で、1代目に負けない強いパッションを持つリーダーを育成していくかは課題です。一方で、2代目の方はデジタル知識が豊富など、1代目と比較して優れている点もあるため、新旧世代の連携が重要になります。
⑤パートナーシップと外部支援:
村のレベル・ニーズに応じたノウハウ提供や金銭的支援をどのように獲得していくかもとても重要です。外部支援は大きく3つになるかと個人的に考えています。①経済的支援、②商品作り支援、③マーケティング支援。が挙げられます。
3つの個別の内容については別の機会に詳細を述べたいと思います。
⑥真正性の確保:
今回、真正性(authenticity)を「その体験がよりホンモノである」と定義をする。ホンモノに近い体験とは、より現地のコミュニティのありのままが味わえる体験になるかと思います。
例えば、カレン族の首長族も文化としては真正性があるものですが、一部では商業的要素が強くなり、ミャンマーの貧しいカレン族の方が生活の経済手段として実施しているという話も聞きます。
ボランティアではなく、ビジネスとして体験を作っていくとどうしても、コミュニティの方にとっては、いつの間にか本来提供したかった体験ではなく、”儲かる”体験に力を入れてしまうこともあることと思います。そうなると、真正性が損なわれてしまうこともあるかと思います。
⑦独自性の確保:
体験のユニークさをどのように出していくかも非常に難しいポイントだと思います。同じ民族は基本的に同じ文化を有しているため、食事や衣服、伝統文化体験となると同じ体験になりがちです。
そこでどうユニークさを出していくかとなると、文化体験に、その村独自の環境(森、川、山など)とコミュニティの人の想い・得意分野をどう掛け合わせていくかであると考えています。これもまた、別の機会にまとめてみたいと思います。
以上、CBTの基礎情報から、筆者が感じたCBT取り組みの要点について書きました。
マニタビでは、地域コミュニティの暮らしを味わえるツアーを準備しています。ご興味のある方は「お問い合わせ」よりお気軽にメッセージをお願いいたします。